(前の記事の続き)さて患者さんの脂肪吸引の手術日がやって来ました。当日の朝、偶然に患者さんとエレベーターで一緒になりましたが、「昨夜は緊張してよく眠れませんでした。」とのこと。しかし睡眠不足のためか却って手術中は緊張がほぐれたようです。
術前にもう一度簡単に手術の説明をした後、身体にデザインを描くのですが、私のデザインは先ず脂肪吸引部を詳細に観察して脂肪の厚さやその下の筋肉を確認して、体表に綿密な等高線を描いて行きます。前回もお話しましたが、脂肪吸引とは人の身体の彫刻そのもので、技術と経験はもちろん美的センスが最も要求される芸術のようなものです。一般に大腿部で最も脂肪が目立つ部位は、脚の付け根の内側上部と外側上部及び膝の内側です。麻酔は硬膜外麻酔法で術部のみ無痛にするため途中で経過を見ることも可能です。現在は直径2mm以下の細いものから太いものまで様々な種類の吸引管を用いて、脂肪層の深層から浅層まで非常に細かく丁寧に吸引して行うために術後の凹凸も殆どありません。
「どうしても可愛いミニやショートパンツをはきたいんです!」というこの女性の夢を叶えるために、途中で何度も色々な方向から彫刻(?)の形を確認し吸引管の入っている深さを確かめながら3時間の手術に神経を集中しつつも、患者さんと色々なお話をしながらの楽しいひと時でした。
脂肪吸引は彫刻のマラソンのようなもので、患者さんから4kgの脂肪を吸引すると主治医は2kgくらい痩せますが、1ヵ月後の検診にこの患者さんが可愛いショートパンツで嬉しそうに来られて、「せんせい、本当にありがとうございましたぁ」というお礼の言葉で、3時間マラソンの疲れも吹っ飛んで報われた気分になりました。