(前の記事の続き)通常エラ削りの手術は口腔内粘膜を切開して下顎角(エラ)を切除するのですが、器具を用いても開口に限度があるために手術部分の視野が非常に狭く、その中へ特殊な器具を入れて手術を行なうために、最新の技術と長年の経験を持ってしても安全の範囲では大きく骨を切除することは中々困難です。この患者さんは下顎角がかなり大きなボリュームで張り出しているために、限界まで大きく広く骨切りするために皮膚外側からのアプローチにしました。
この術式はエラの下の皮膚の部分を2.5cmほど切開するのですが、傷痕は3ヶ月ほどで殆ど目立たなくなります。この小さな切開口を上下に移動させて骨膜下を広範囲に剥離するために、付着する筋肉群を完全に剥離出来る上、骨切りの範囲もオトガイ部(アゴの前方)から角部(エラ)までを直視下で広範囲に安全でスムースに出来ますが、慣れるまでにかなりの経験を要するため一般的には余り行なわれていません。頬骨削りは口腔内切開と耳前部頭髪部を1cm切開で頬骨を骨切りして内方へ移動する術式で、これも傷痕は殆ど分かりません。
手術当日はさすがに緊張してみえましたが、ご希望のJ-Popsがかかるオペ室に入ってからは、「これで長年の悩みが取れます。先生、宜しくお願いします。」という女子高生らしくない(偏見かな?)礼儀正しい言葉と落ち着いた態度には感心しました。手術は計画通りに進行し4時間に及ぶ大手術でしたが無事終了しました。そう言えば、たった2.5cmの小さな傷口から長さ9cm巾2cmの大きな骨の塊が出てきたのを見て、麻酔科の先生が「こんな手術は初めて拝見しました。素晴らしいですね!」と言ってくれた褒め言葉に、お世辞に弱い私は大変良い気分でしたね。
その後、患者さんは経過も順調で3ヶ月検診は今まで出来なかったアップの髪型で来られましたが、エラと頬骨の出っ張りがなくなり顔が小さくソフトな印象になっただけでなく、端正な目鼻立ちともとてもバランスが良くて173cmの長身の姿がキラキラと輝いているようでした。
その時に患者さんからお礼に(?)携帯のストラップを頂きましたが付けるのが何となく気恥ずかしくてそのままになってしまいました。何年か後で有名なファッション雑誌のページを飾る彼女を見つけた時、私自身とても嬉しい気持ちになり心の中で「頑張ってね。」とつぶやいていました。