(前の記事の続き)三河の山間にあるその病院はベッド数60床ほどの私立病院でしたが、入院患者さんは寝たきりや慢性疾患の落ち着いた状態で、ご家族の都合などで病院に長期間あずけられた私よりも元気(?)なお年寄りの患者さんばかりでした。
当時は厚生省の医療行政も現在とは比較にならないほど緩やかだったため他の一般病院も状況は同じで、患者さんの中には5年以上も入院したまま病院に住み着いてしまって盆暮れ正月だけ家庭へ里帰り(?)している方などもいて、病院のことは職員やナースよりもその患者さんに聞いたほうが詳しく分かったものです。
前述の通りこの病院では、外来患者・入院患者・職員などが皆知り合いで、家庭的な雰囲気の中とても温かくのんびりとしたものでした。当直中には救急患者もなく、翌朝医師当直室で朝食を食べて、9時からはそれ程多くない外来患者さんを診察して、合間に心エコー、腹部エコー検査や胃カメラ検査など、当時は私は循環器呼吸器専門でしたが色々な病院へ勤務するうちに一般内科ばかりでなく整形外科、耳鼻科、皮膚科、眼科なども必要に応じて何でも診られるようになってしまいました。
そして午後からの往診は病院の車でナースと一緒に出かけるのですが、患者さんの家は山間や畑の中に点在していて実にのどかな風景です。しかし私はそこで思いもよらない光景に遭遇しました。「道路の端に何かがうずくまっている!」 何とそれは子供を抱いた野生のサルだったのです。往診車の中からよく見ると母ザルの腕に抱かれた子ザルは何となくぐったりとしていて眠っているのではなく車に引かれたか木から落ちたのでしょうか?
これがおとぎ話なら、私が近寄ってその子ザルの手当てしてやって元気になり、後で恩返しに病院の前に山ほどの柿を持って来てくれたとか、もっと現実的に数匹のサルが岐阜大学の実験動物として自ら協力を申し出たとか、、、実際は地元のナースの「子ザルを連れた母ザルは特に危険です」という忠告に即従って、子ザルの無事を祈りながらその場を後にしましたが、私の人生で野生のサルをこんなに近くで見たのは最初で最後です。(次の記事に続く)