このコーナーを始めてからちょうど2年になります。最近患者さんや色々な知り合いの方から「先生の医者冥利を毎月楽しみに読んでいます。」とか「あの話は○○病院のことですね、、」というメールやお手紙などを戴き、予想せず多くの方に読んで頂いていることが分かり、これからも頑張って書いて行こうと気分を新たにしました。
私は医師になってもう25年です。今までに数え切れない多くの患者さんを診て、沢山の人々と出会い、そして色々な経験をして来ました。時に悩み挫折してそれを乗り越えまた壁に当る、そんな人生の繰り返しでしたが、今でも目を閉じれば鮮明に蘇って来る数々の思い出深い患者さんや素晴らしい人々との出会いを通して、それら全てが医師として人間としての私の大きな財産であり誇りです。
今回は、以前もこのコーナーで「天国の父親からのメッセージ」でもお話ししたように、岐阜大学附属病院第2内科で研修医時代に担当した患者さんのお話です。患者さんは当時30代の女性で肺癌でした。1年前に当科へ入院されて精査の結果、病理診断で腺癌と診断され3ヶ月間の治療されましたが、再発で再び入院されて来ました。肺癌は一般には男性の喫煙者に多いと思われがちですが、病理診断で4種類の型があり、男性喫煙者に多いのは扁平上皮癌というタイプで、この患者さんのように腺癌は喫煙とは関連なく男女の差もありません。この女性は、ご主人と可愛い小学生二人の女の子の4人家族でしたが、とても綺麗な方で、まさに美人薄命(健康な美人から文句が出そうですが、、)という第一印象でした。腺癌は扁平上皮癌と異なって咳や血痰の症状が出る発見時には既に肺全体に広がって手術適応にならないことが多いため、初回の入院時には抗がん剤投与による化学療法を受けられていました。今回は背中の痛みと全身倦怠感を訴えて入院されました。CT、MRIなどにて検査したところやはり肺癌の広がりが進行していて、加えて脊髄神経への転移と脳への転移が見つかりました。さて患者さんに何と説明するか、研修医で経験も浅かった私は大いに迷いました。現在は医療側にinformed consentの義務があり治療の協力を得る目的でもガンの告知をご本人にすることが多くなりましたが、当時の医療界では殆どしないことが一般的でした。(次の記事に続く)